この宇宙にあなた1人だけなら存在していないも同じ
「人は本来、他者の介在があって初めて存在し得るものだということを難民に教えられた。」
(クゼ:攻殻機動隊)
人間は相対的にしか物事を判断できない。それは良し悪しとかだけではなく、そのもの自体がなんなのかすらわからない。
日本酒には「山廃仕込み」というものがある。この山廃仕込みとは一体なんなのかを説明するには、山廃仕込みではないものと対比しなければならない。
「生酛造りにおける山卸しの過程を廃止したもの」が山廃仕込みだ。
生酛というのは酒母の造り方で、昔ながらの製法。酒造りに必要な乳酸菌を自然の力で培養する。最近の主流は速醸酛と呼ばれて、こちらは乳酸菌を工業生産したものを投入する。
山卸しとは乳酸菌を培養するために米や米麹をすり潰す工程のこと。この工程を無くして、酵素の力で米を溶かすのが山廃仕込み。
乳酸菌を長い期間かけて培養し、発酵の最後まで乳酸菌が生きている山廃仕込みや生酛造りの酒は、「コクが深い」とか「芳醇な味わい」といった具合に表現される。これはもちろん速醸酛など他の酒と比べた時の評価だ。
もしこの世の中に山廃仕込みの酒しか味のする物がなかったら、その味を表現する言葉は生まれなかっただろう。
それと同じように、この宇宙にもしも自分しか存在しなければ、幸せも不幸もない。喜びも悲しみもない。忙しいも暇もない。恥じらいもなければ自慢もできない。なにもできない。なにも感じない。存在していないも同じ。
人生の暇つぶしをできるのも誰かがいてくれるからなんだな〜。